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まったく。



芦多は荒く息を吐き出した。



千歳の悪ふざけで自分まで巻き添えだ。



辰之助の真似をしきれているか、検査をされた時、千歳はとんでもないことをやらかした。



向かいの廊下を通した灯世に大きく手を振ってみせたのだ。



これには教育係も激怒。



普段から不真面目な千歳に怒り気味だった教育係はもう年だというのに千歳を追いかけまわした。



挙げ句、ぎっくり腰。



すっ転んだ爺さんの変わりに芦多が止めるはめになり、八つ当たりを食らった。



こんなことになるなら黙視していればよかった。



長い廊下に雑巾掛けをしながら、芦多はちんたらと後をついてくる千歳を睨んだ。



「千歳、早くしろ。
次は柱を磨かなければいけないんだ。」


「知ってるよ。」



言いながら、千歳は座りこむ。



「でも足が痛くて。」



嘘を吐け。



「お前、私より脚は強いだろう。」


「んなわけないだろ。
何に関しても芦多に適う奴なんていないじゃん。」



雑巾を絞りながら、芦多は顔を歪めた。



昔からそう言われるのは嫌いだ。



芦多はいいよな、と腐る前に努力をすればいいものを。



勝手に妬むのはいいが、八つ当たりは勘弁だ。