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さて、どうしよう。
中庭で別れたはいいが、これから自分の部屋に戻るべきか、廊下を歩いて見付けてもらうべきか。
悶々と悩んだ末、灯世は歩き回る方をとった。
下手なりに芝居を打って、迷ったふりをしよう。
灯世にはそれが一番いい手に思えた。
もう一度、秋人と呼ぶことにした少年に会えるかと少し期待し、今来た道を歩いてみる。
といっても、ややこしい道だったので記憶を頼りに覚えている範囲で動く。
本当に迷ってしまったら洒落にならない。
静かな廊下に着物を引きずる音が響く。
当分、人は通りかかりそうにない。
少し怖くもあり、楽しくもあった。
ところが、少しすると、人の話し声が聞こえてきた。
誰かしら?
灯世は眉をひそめた。
ここは確か、ごく限られた人間しか出入りを許されていないと聞いたのだけれど…。
少なくとも二人はいるみたい。
八重から色々と厳しく言われた場所だけに、灯世はだんだん怖くなってきた。
出来る限り静かに歩け。
今、鉢合わせしそうな人たちは話しながら歩いている。
とても静かとは言い難い。