「ああ、芦多か。
驚いた。」



見ると、さっき灯世がいなくなったと伝えに来た千歳だった。



「どうだ、いたか?」


「え?」



バクバクと鳴る心臓を押さえ、芦多は聞き返した。



「大守護者の娘だよ。
探してたんじゃないのか?」



みるみる不審そうになっていく千歳に、慌てて芦多は首を振った。



「あ、ああ。
まだ見つからない。」


「そうか。
俺もずっと見て回っているのだが、見つからん。」


「心配しなくとも、戻ってくるんじゃないか。」



どうだか、と千歳は肩をすくめた。



「ずっとこの屋敷に籠もりっきりで、自分の屋敷に帰らせてもらってなかったっていうぜ。
嫌になって帰っちまったのかもな。」



そうか、と呟く芦多は少し焦った。



もし大事になったら大変だ。



ここは一芝居打って私が灯世を見つけるか。



「私はこっちを探してみる。
お前は向こうから回ってみてくれ。」



ところが、くるりと後ろを向いた芦多の肩に、千歳は腕を回した。



「俺も行くよ。
もう向こうは見て回ったんだ。
今からこっちを回るところだから。」



見えないように唇を噛む。



自分が顔を見せたとき、灯世が変に反応しなければいいが。



ったく、飯の時間が削れる、と悪態をつく千歳を横目に、芦多はため息をついた。