「私、何かいたしましたか?」


「何も。」


「どうして、ここに?」



覚えていないのか?



思わず芦多は灯世を見返した。



「すみません。」



またまた小さくなった灯世に慌て、芦多は言った。



「灯世は何もしていない。
庭で倒れたから私の部屋に運んだだけだ。」


「倒れた?」



灯世は驚いて目を見開いた。



「覚えていないのか?」


「はい…。」


「中庭で。
いきなりグラリと揺れて…。」



しばらく頭を押さえて何かを考えていた灯世は、あっと声を上げた。



「思い出しました。
……ご迷惑おかけいたしました。」


「いや、迷惑ではない。」



どうして医師のところに連れて行かなかったと責められても仕方ないと思っていた。



見知らぬ男の部屋に連れ込まれたと怯えても不思議ではない。



「あまり謝るな。
こちらが困る。」



灯世はまたすみませんと言いかけて、ありがとうございますと直した。