廊下に出た芦多は、ハッと息吐き出した。



詰めていた分だけ息を吸う。



調子が狂う。



感情を押し隠すのは得意なはずなのに。



今もみるみる口元がほころんでいくのがわかる。



どうして、こんなになってしまったんだろう。



井戸で水を汲み上げながら、芦多は真剣に考えた。



灯世が特別に人を引き付けるものを持っているわけではないと思う。



ただの普通の少女に見えるだけだ。



血筋は立派だろうが、見かけはごく普通なのだ。



なのに、どうして…?



持ってきていた陶器の入れ物に水を汲み、芦多は部屋に戻った。



「待たせたな。」


「ありがとうございます。」



もう自力で起き上がれるようになったようだ。



灯世は芦多から湯飲みを受け取り、そっと口をつけた。



それを見ながら離れた壁際に腰を下ろす。



半分ほど飲んだところで灯世は湯飲みを置いた。



「あの…。
色々すみませんでした。」



礼は言われても謝られはしないと思っていた芦多は顔を上げて首を振った。



「私は謝られることは何もしていない。」



気にするなと言うと、灯世は申し訳なさそうに首をすくめた。



謝ってばかりいそうだな。



ここもやはり貴族達とは違う。



こういう謙虚な構えが好きなのかもしれない。



芦多は思わず小さく微笑んだ。



正面では灯世が不思議そうに首を傾げている。



何でもない、と言って、また笑った。