原因がわからない。



持病があるのか、はたまた病にかかったのか。



何にしても、おしぼりは必要だ。



スッと芦多は立ち上がった。



そしてなるべく音を立てないように部屋を出、急いで歩き出した。



字の教本類を辰之助の部屋に置き、忍び足で布とたらいを盗る。



一緒に目に入った林檎も2つばかり頂戴する。



後できちんと返す……林檎以外は。



心の中で何度も詫び、そうっと部屋に戻った。



部屋に一番近い井戸で水を汲み、台所から掠め取った果物を洗う。


念入りに洗うと懐にしまった。



チャプチャプと揺れるたらいの水を零さないようにして部屋に戻り、これまた苦労して中に入る。



灯世はまださっきと変わらずにいる。



芦多は布をすべてたらいの水に浸け、一枚を絞って灯世の額にのせた。



どうか、良くなりますように。



めったに祈らない神に頼んだ。