「悪いが今は説教を聞いている暇はない。」



灯世の中で何かが切れた。



「じゃあ、片付けます。」


「え?」



芦多が聞き返すまもなく、風が吹き荒れた。



パッと、灯世の髪を結んでいた紐がちぎれ飛ぶ。



灯世の目は爛々と光っていた。



「姫。」


「気安く呼ぶな。」


「ふん。
怒りに支配されると墓穴を掘るぞ。」



蛇儒は言い終わらないうちに、さっと飛びのいた。



灯世が術を使ったからだ。



「姫。
術は本来こうして使うものではないぞ。」


「煩い。
貴殿が先に悪用した。」



ギィギィと、頭上で耳障りな声が聞こえた。



蛇儒が顔をしかめる。



「わしの使い魔がやられたようだな。」



しばらくして、サクだけが降りてきた。



「ご苦労様、ありがとう。」


“お安い御用。”



灯世の手に触れると、サクはふっと姿を消した。



「姫。
何もわしはそなたに危害を加えたいわけではない。」


「芦多様には?」


「…。」



黙った蛇儒に、灯世は無言のまま術を放った。