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ピクン。
自分の中の、何かが反応した。
「芦多様…!」
「え?」
馬を引いてくれていた一人の兵が、不思議そうに灯世を見上げる。
「灯世様、何かおっしゃいましたか?」
何気なく彼は訊いたのだが、返事を返さない灯世を訝しく思い、顔を上げた。
「灯世様?
灯世様、顔が真っ青ですよ!?」
その声を聴きつけ、辺りがざわざわと騒がしくなる。
「すみません、少し、緊急事態です。」
灯世は相手の言葉を待たず、手綱を引き取り、馬を駆った。
兵達が灯世を呼ぶ声が後ろに聞こえる。
危険?
今は芦多様が危険だ。
彼に施しておいた結界が、反応した。
きっともう、蛇儒に遭遇しているはず。
とろとろしている暇はない、急がないと!
呼吸が乱れた。
慣れない山道を、慣れない馬に乗って、駆けている。
自分が落馬していないのが不思議なくらい不慣れなのに、灯世は全速力で馬を駆った。
お願い、無事でいて…!