頼むから、逃げてくれ。



芦多は、敦賀を庇うように前に立った。



「芦多様。」


「行け。」



低く、唇から押し出すような声を出すと、やっと敦賀は駆け出した。



「よいのか。
貴殿一人だぞ。」


「生憎、一人のほうが慣れている。」



ここで、蛇儒はふふんと笑った。



「用件はなんだ?
早く、帰って灯世に会いたい。」



ふざけてみれば、蛇儒は本気にとったようだ。



額に筋を浮かばせ、芦多を睨む。



少しだけ、生気が宿ったように見えた。



「会えん。」


「どうして。」


「今、ここが貴様の墓場だからだ。」



言うが早いか、蛇儒は素早く右手を突き出した。



術か!



芦多は腰を落とす。



少しして、糸のようなものが、蛇儒の手に群がりまじめる。



蛇儒はそれを芦多に向かって飛ばした。



あれに触れたらどうなるんだろう。



芦多はさっと避けながら、考えた。



利用できるものならそうしたいが、危険だ。



そうしている間にも、蛇儒は高齢とは思わせない俊敏さで芦多に迫った。



なるほど、武術も達者か。



ひょいと突き出された刀を避け、観察する。



刀身がギザギザと切れ込みの入った、特殊な刀。



少し当たれば、ざっくりと切れそうな代物だ。