「でも、芦多様の言いたい事はわかります。
そして、私は芦多様のすべてが好きですし、尊重したいんです。
貴方を行かせたくはありませんが、芦多様がそうと決めたなら、私は従います。」



それを聞いたとき、身体の力が抜けるかと思った。



「灯世、ありがとう。」



ただ、礼を言うしかない。



灯世の心の広さを思い知らされた。



自分なら、刀を抜いてでも灯世を止めるだろう。



「芦多様、くれぐれも、お気をつけて。」



別れ際、灯世が芦多の顔を両手で挟んで言った。



いつもははやし立てる部下達が、今日は静かだった。



何かいつもと違う空気を感じ取ったのかもしれない。



「ああ。
灯世も。」



灯世の眉が、震えた。



「夕方、もう一度会えますよう。」



その声も、震えていた。



直後、唇が重なる。



芦多は驚いて目を見開いた。



大勢の前で、灯世がこうしたことはなかった。



しーんとした中、灯世の声がやけに大きく響いた。



「愛しています。」



芦多はろくに返事を返すことが出来ないまま、馬に跨った。



「行くぞ。」



気を利かしてか、敦賀が号令をかけた。



みんな、それに大人しく従う。



芦多はそれに甘え、見えなくなるまで灯世を振り返って見つめていた。