「じゃあ、そろそろ出発みたいだから、俺は帰るよ。」


「もう、ですか?」



何なら遅らせましょう、と言う灯世を制し、爪鷹は芦多に向き直った。



「気をつけろよ、芦多。
それに時々便りを寄越してくれ。
心配で仕方ない。」


「…わかった。」



今、爪鷹に灯世の夢のことを言ったら、きっと止められるんだろうなと思いつつ、頷く。



「お前も気をつけてくれ。
油断していて、奇襲に合って、怪我をするなよ。」



「余計な心配だ。」



がっしりと抱き合う。



灯世はそれを、隣で黙ってみていた。



「じゃあ、灯世。
元気でね。」


「はい。
爪鷹さんも。」



馬に跨り、颯爽と帰っていく爪鷹を見送る。



その間、二人とも無言だった。



「行こう。」


「はい。」



手を出すと、そっと重ねられた。



よかった、避けられなかったと、安堵する。



「灯世、怒っているか?」



怖くて、顔を向けられない。



芦多は正面を向いたまま、答えを待った。



「ええ。」



返ってきた答えに、冷や汗が滲む。



どうしよう。



なんと説得しよう。



何とかさっき、自分の気持ちは伝えたつもりだった。



これ以上、言うことは何もない。



ただ、許しを請うだけだ。