「芦多様の意見もわかります。
しかし、男は散りゆけばそれで終わり。
残された女は?
一生傷を負ったまま、生きていくのですよ。」



灯世の鋭い目を避けるように、芦多はゆっくり瞬きをした。



愛している。



ただそれだけなのに、二人の間に第三者が立ちふさがる。



こんな不条理なことってない。



どうして戦などするのか。



誰も得などしないのに。



「………灯世、わかってくれ。」


苦しそうに、芦多が言う。



「芦多様こそ、私の気持ちわかってください。」



自分が今、嫌な女なのはわかっている。



でも、どうしても死なせたくなかった。



蛇儒の言葉を完全に信じたわけではなかったが、本当の可能性の方が高い。



何せ、蛇儒の力は強大なのだ。



しばらく、二人は無言だった。



「灯世、もし戦が終わって、無事に屋敷に帰ったとする。
その後はどうするつもりだ?」



はたと、灯世は固まった。



考えたことはなかった。



「勿論、今まで通り…。」


「今まで通り暮らすのか?
きっと、無理じゃないだろうか。」



芦多は静かに続ける。



「灯世は今まで通り、辰之助様の奥方として暮らす。
だが、私はいつ何時また地方へ送られるかわからないし、役職を与えられれば、灯世とは一緒にいられなくなる。」



それに何より、と芦多が声を硬くした。



「灯世は何が何でも、子どもを生まされるだろう。」



言ってから、芦多はそっと灯世を窺った。