灯世はゆっくりと俯いた。



涙が、こぼれる。



芦多は慌てもせず、灯世の頭を撫でた。



「すまない。」



ポツリと、一言謝る。



そんな謝罪、いらない。



ただ、あなたがここにいてくれれば。



私はもう何も望まないのに。



「芦多様はおっしゃいましたよね?
もう離れないと、そうおっしゃいましたよね?」


「あぁ。」


「嘘を、つくのですか?」


「………あぁ。」



言いながら、芦多は灯世を胸に抱き締める。



「私には、やっと役目ができた。
しかも、灯世に与えられた使命だ。
これがどれだけ私の生きる糧になっているか。」



芦多の柔らかな声が、流れるように灯世の耳に入ってきた。



「男にはな、灯世。
守らねばならない一線がある。」


「女にだって、ありますわ。」



灯世は芦多の言葉を遮った。



愛する人を死なせたりしない。



全力で支え、護る。



それを譲れないのは、女も同じだ。



「あぁ、そうだな。
悪かった。」


「謝罪など、聞きたくありません。
お願いですから、命を無駄にしないでください。」



途端に、芦多の顔が険しくなった。



「無駄にするな?
最前線に出て行った私の部下は、ほとんど命を落とした。
それでも、私に下がっていろと言うのか?」



声こそ荒げはしなかったが、初めて聞く芦多の怒声だった。



初めて、叱られた。



「大将たるもの、苦楽を共にすべきではないのか?」



芦多の言葉が、深く灯世をえぐった。



自分が勝ってなことを言っていることくらい、わかっている。



兵の中には、恋人と別れて田舎から出てきた者も多数いるだろう。



そして、彼らは灯世と芦多のようにこうして会うことも出来ずにいる。



苦しいだろう。



それは灯世にも痛々しいほどわかる。



だが、だからといって芦多をいかせるつもりは全くない。