だから、なんだ。



灯世を納得させる材料にはならない。



生きていて欲しい。



ただそれだけが願いなのに、その芦多の覚悟は真反対だ。



「芦多様、お願いです。
せめて、今日だけはここに残ってください。」



芦多が首を振る前に、灯世は急いて言った。



「蛇儒が、今日の正午が芦多様の寿命だと。
昼に、芦多様を殺すと。」



芦多は少し驚いたように目を見張った。



「そんなことまで。
蛇儒も案外、世話焼きだな。」



そして最後に朗らかに笑ってみせる。



そんな、笑っている場合ではないというのに。



灯世は唖然としてしまった。



命を奪うと宣言されたというのに。



どうしてこの人は動じない。



「芦多様、ご自分が置かれている状況がわかっているのですか?」


灯世はすがる思いで言った。



「お願いです、私を置いていかないで。」



芦多は優しく笑った。



それだけだった。



この時の笑顔ほど、灯世を不安にさせた顔はない。



「芦多様…。」



もう、何を言っても、無駄だとわかった。



芦多様は覚悟を決めた。



責任を背負った。



灯世は深いところまで考えず、芦多を隊長に推した。



それが、何を意味するのかも考えずに。



一番前に、立つということなのだ。



いかなるときも。



たとえ、槍の雨が降ろうと。



きっと、芦多はそれをも引き受けたのだ。



そして、爪鷹も同じ。