芦多は、優しく灯世の頭を撫でる手を止めなかった。



灯世は恐る恐る、芦多を見上げる。



「芦多様…。」


「うん?」



穏やかな顔だった。



「驚かないのですか?」


「ああ。
何となく、納得がいく。」


「納得って…。」


「灯世、考えてみろ。」



言って、芦多は灯世と目を合わせた。



「もし、ここに敵が乗り込んできたとする。
真っ先に狙われるのは?」



この質問がわからないほど子どもではない。



「芦多様です。」


「そうだ。
隊長になったときから、覚悟はしていたさ。」



そんな覚悟、なくていい。



私は、そんなこと考えない。



芦多様は、私と一緒に生きるのだから。



「行かないでください。」


「灯世。」


「行かないでください!
一緒に逃げましょう?」



見る見る、芦多の顔が険しくなった。



灯世は怯えて押し黙る。



「それは、出来ないことはわかっているだろう。」



わかっている。



そんなこと、もし出来たとしても、芦多が断るだろうこともわかっている。



だが、願わずにはいられない。



「それは私への侮辱にもあたるぞ。」



わからない。



灯世は、問うような視線で芦多を見上げた。



芦多はそれを一瞥すると、顔色をかえずに言った。



「私は最初から一線に立つ覚悟を持ってここへ来た。」