灯世は恐怖よりも憎悪が膨れ上がってくるのを感じた。



何が何でも金縛りを解いてやろうと思ったとき、蛇儒が恐ろしいことを口にした。



『その男、わしが殺してやろう。』



一瞬、心臓が止まったかと思った。



芦多様を、殺す?



また、蛇儒が笑った。



『冗談ではないぞ、姫。
わしも、やられっぱなしというのは顔が立たない。
そちらの若き有望株を潰しておくに越した事はない。』



嫌だ!



そんなこと、させない!



嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!



灯世は必死で念じた。



それが届いたかどうかは定かではないが、蛇儒が言った。



『こんにち、正午。
わしの予言では、それが芦多の寿命だ。』



せいぜいあがくんだな、姫。



そう言って、蛇儒は消えた。



同時に、灯世の身体にも自由が戻り始める。



軋む身体を鞭打ち、灯世は飛び起きた。



寝巻きのまま、裸足のまま、芦多の天幕まで駆ける。



「灯世様!?」



兵達が驚くのもかまわず、一心不乱に足を動かした。



やっとの思いで芦多の寝ている天幕へ辿り着く。



声もかけずに、灯世は中に飛び込んだ。



「芦多様!!!!!」



芦多は突然のことに、飛び起きた。



寝ていたにも関わらず、瞬時に。