政隆の部屋のある方向に足を進め、はたと留まった。



政隆にしばらく稽古は休みだと言われたではないか。



自分の集中力の無さで。



それなのにノコノコ行けるわけがない。



今更ながら、悪いことをしたと思っている。



真剣に技を伝授してくれているというのに、自分は女ばかり気にしていた。



政隆は気分が悪かったことだろう。



しばらく反省し、自主練習をしなくては。



くるりと芦多は反対方向に身体を向けた。



取り敢えず辰之助の部屋に戻り、荷物を置こう。



辰之助様が帰ってくるのは大分先だろうから、それまでは『辰之助』で居続けなければならない。



ジャリ、という音に、芦多は回廊から見える中庭に目を向けた。



と、そこには一人、少女が立っていた。



背中まで伸びた艶やかな髪を垂らして、ただ立っている。



顔は髪で隠れて見えない。



たが、芦多の感が叫んでいる。



この子はあの特別な子だと。



芦多の脳内にあの夜の出来事がよみがえる。



身体が勝手に動いていた。



一段一段、足が庭に下りる階段を踏みしめていた。



階段を全部下り切った時、グラリと灯世の身体が揺れた。



あっと息を飲んだ直後、灯世はそのまま膝を折り、倒れた。



「灯世!」



思わず叫んだ。



叫ばずにはいられない。