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朝。



天幕では遮りきれなかった太陽の光が、灯世の頬を照らす。



布団の中で丸まりながら、灯世はゆっくりと目を開けた。



まだ完全に起ききらず、ぼーっとしている頭に、兵士達の声が届く。



もう、朝食の準備に取り掛かってくれているらしい。



そろそろ自分も起き出さなければと思いつつ、寒い外には出たくなかった。



と、背筋に悪寒が走った。



蛇儒の笑った顔が、脳裏に浮かび上がる。



灯世は恐怖のあまり、悲鳴も出なかった。



『姫。
聞こえているだろう。

そちらの芦多が我が国の大将の一人を討ち取った。
この借り、大きいぞ。』



身体が金縛りにあったように、動かない。



喉も締め付けられて、声が出なかった。



そうこうしているうちにも、蛇儒は続ける。



『主と若き隊長との間柄はこの間捕虜から聞き及んだ。
まったく、蛙の子は蛙とは、よく言ったものだ。』



どういう意味だ。



問いたかったが、何せ声が出ない。



灯世は黙って聞いているしかなかった。



『許されぬ恋、か。
ふふ、おもしろい。』



カッと頭に血が上った。



おもしろい?



許されぬ恋だと?



ふざけるな。



自分は真剣に芦多を愛している。



そして、彼も同じはずだ。



たまたま生まれた家が違うと言うだけの話であって、本人達は真剣なのだ。



それをおもしろいなどど鼻で笑われるなど、我慢がならない。



自分達がどれだけ遠回りをしてここまで辿り着いたと思うのだ。



どれだけ、心が痛かったか。