ところが、灯世は寂しげな顔のままだ。



「灯世…。」



なんと言おうか。



芦多は困って頭に手をやった。



すべて見透かされている気がして、下手には口を開けない。



実際、見抜かれているのだろうし。



「少し、歩きましょうか。」



そうこうしている間に、灯世が芦多の手を引いて歩き出した。



「敦賀さん、少し散歩に行ってきます。」


「ああ、どうぞ。」



そろそろ、近衛たちも芦多達の関係を受け入れ始めていた。



型連中は言わずもがな。



誰も何も言わず、そっと送り出してくれた。



灯世はそれをいいことにどんどんと進んでいく。



さすがに、森の奥までやってきたとき、芦多は小さく抗議した。



「疲れた。」



嘘だったが。



灯世はそれをわかっていながら、そうですかと言って足を止めた。



「ここまでくれば、いいでしょう。」



何がいいのか。



取り敢えず芦多は何も言わず、倒木に腰をおろした灯世の隣に座った。



「今日はお疲れ様でした。
みんな、芦多様を誇っていますよ。」


「…ありがたいな。」



そう言って、驚いた。



自分の声が、あまりにも機械的だったからだ。



しかし灯世はそれをさして気にした様子もなく、空を見上げた。



「満月ですねぇ。」



芦多は、答えずに同じように空を見上げた。



灯世も別に答えを期待していたようでもない。



芦多は気持ちのいい沈黙にたっぷりと浸かった。