「芦多様、万歳!!!」
敦賀が、大声で叫ぶ。
それに続いて、大勢の男の声が張り上げられた。
芦多はそれを聞きながら、そばに置かれた首桶に目をやる。
中にはさっき芦多が討ち取った敵大将の首が入ってる。
芦多はその時のことを、もう思い出せなかった。
が、目の前の大勢の部下の士気に満ちた顔を見ていると、そんなことはどうでもいいように感じられた。
自分は、隊長として正しいことをした。
「芦多様、今度は総大将ですね!」
頬を上気させた部下が、芦多のわきで叫んだ。
そうだそうだと、声が上がる。
芦多は曖昧に微笑んだ。
今回はたまたま敵勢が体勢を崩してくれたおかげで首をとることが出来た。
だが、今度があるかどうか。
明らかに芦多は実戦での経験は不足している。
敵国の隊長にはそうそう敵わないだろう。
ここで調子付いた部下達を、がっかりさせる羽目にはならないだろうか。
それが心配だった。
「芦多様。」
そばで、小さく芦多を呼ぶ声があった。
振り向かずともわかる。
第一、ここにいる女は灯世だけだ。
「なんだ?」
芦多は出来るだけ、優しく言った。
心中を悟られないように。