刀を振りかざしている人混みの中を縫うようにして走りながら、芦多は敵大将を探した。



無意識に目が鋭くなる。



時折、斬りかかって来る敵国の兵士を振り返りもせずに斬り捨てる姿は、若いながらに隊長の座をものにした力量が窺えた。



「…いたッ!」



遠くに、馬に乗る人影があった。



明らかに顔は緊迫している。



今なら仕留められる。



芦多はそう確信し、駆け出した。



今は鎧の重さなど、苦にならない。



主人の心境を読み取ったのか暴れる馬をいなして、時間を食っている。



芦多は内心にやりと笑い、その背中に飛び掛った。



敵も身構えて応戦するも、その体制では勝敗はわかりきっていた。



背中から襲うのは芦多の信念に反するが、これは戦。



決闘でも試合でもない。



殺し合いなのだ。



やらなければ、自分がやられる。



そして、今、芦多には護らなければいけないものがある。



それを失わないためには、少しくらい己の信念を曲げる事をもいとわない。



芦多は心を空にして、ただ無感情に太刀を振るった。