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芦多と一緒に陣地に辿り着いたあとも、灯世は一人天幕にこもっていた。
蛇儒の言葉が頭を回る。
自分の出世は知っているつもりだった。
あの屋敷が自分の家だと信じてきた。
なのに、いきなり意味不明な言葉が投げられた。
父親のことが気にならなかったわけではない。
何度も八重に訊いた。
が、曖昧に誤魔化されるだけだった。
何か、秘密があるのだろうか。
「灯世。」
いきなり、幕の外から聞こえた芦多の声に、灯世はびくりと身体を竦ませた。
「は、はい。」
情けなく、どもってしまう。
「入っていいか。」
灯世は慌てて、身なりを正した。
「どうぞ。」
返事をして一拍置いて、芦多が入ってきた。
何となく気まずく、灯世は目をそらした。
芦多の足音が、右に動く。
灯世は少し顔を上げて、芦多を窺った。
「蛇儒について、情報が入った。」
押さえた声で、芦多が言う。
灯世は落ち着きなく視線をあちこちに走らせる。
そんな灯世の隣に、芦多はしゃがみ込んだ。
「案ずるな。
知ったような口を利いていたが、あまり灯世とは関係ない。」
どういうことだろう。
灯世の秘密(あるとすればだが)を知っている様子だったのに。
「八重様が呪術の修行をなさっていた時の知り合いらしい。」
母様の?
でも、母様はそんなこと一言も言っていなかった。
「ただ…。」
ここまで淡々と話していた芦多が、灯世を窺った。
「…どうかしたんですか?」
「いや…。」
少し嫌な予感がする。