その不満は、芦多では受け切れない。



受けたくもない。









そうこうしているうち、勉強の時間は終わった。



師は上機嫌で帰っていく。



最近、『辰之助』の成績が伸びたのだ。



最近というのが、芦多が代わりを始めてからなのが悲しい。



これでも抑えて間違えるようにしているのだが、慣れないことをするのは難しい。



文武共に辰之助より優れている芦多は、文句なしの身代わりだった。



そして、自我も強くなく、顔も瓜二つ、まさに影のような芦多は、辰之助と辰太郎のいい道具になっていたのである。



毎日を機械的に過ごすのは悲しいものだ。



回廊を歩きながら、思った。



ふと、空を見上げる。



この白壁の向こうには、どんな世界が広がっているのだろうか。



まだ、芦多はこの外に出たことがない。



今まで、出たいとも思わなかったし、気にも止めなかった。



世界とは、どういうものなのだ?


素朴かつ純粋な疑問が頭を渦巻く。



駄目だ、自分は辰之助に仕える型、自分勝手な行動・思考は慎むべきだ。



頭を軽く振り、歩きだす。



政隆にでも頼んで、稽古の相手をしてもらおう。



最近疲れているのだ、気分転換をしよう。