坊主頭に、袈裟に似た着物。



顔には深いしわがいくつもあり、高年齢を思わせた。



戦場だというのに、もう声は何も聞こえない。



いつの間にやら、霧のようなものが漂っていた。



「主、敵軍の大将か?」



厳かな声。



芦多はただじっと彼を見返すだけだった。



「ようやっと会えたな。」



無感情な目を、芦多に注ぎながら、彼は言った。



「お前は、誰だ。」



芦多は喉から声を絞り出すように、尋ねた。



ここでようやく、男は芦多と目を合わせた。



「私は蛇儒(ジャジュ)。
海澱の術者の頭だ。」



ぞくりと、背中に悪寒が走った。



この男が、術者。



やせ細った長身の男。



ぎょろりとした目を向けられると、身体が竦んだ。



「主は?」



芦多は腰を落としたまま、相手を威嚇するかのように、名乗った。



「三芳ノ国、一番隊隊長、芦多。」


「ふむ、隊長。
…若いな。」



その言葉がどちらの意味なのか、考える余裕がなかった。



どこか、油断のならない雰囲気を醸し出している蛇儒が怖かった。



「何をした。」



低い声で問うと、蛇儒は首を傾げた。



「今、なんの術を使ったのだ。」


「時を、止めた。」


「止めた?」



芦多は訝しげに蛇儒を見上げる。



時を、止めただと?



そんなこと、出来るはずがない。



自然の理を無視している。