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地面が大きく振動する。
どうやら近くに投石が落ちたらしい。
茂みに身を隠しながら、芦多は素早く思考を巡らせた。
どうすればいい?
正直、打つ手がない。
やはり海澱は今までの中で一番手強い敵だった。
「芦多様、退きますか?」
芦多のすぐ横にしゃがんだ部下の男は、弓矢を脇に用意したまま尋ねた。
ぐっと唇を噛む。
退いてばかりで、攻められ続けている今の現状。
ここら辺でやり返さないと危ない。
だが、さっきも言ったように打つ手がなかった。
「…退こう。」
部下は無言で頷くと、仲間のもとへと走って行った。
その背中ギリギリに投石が落ちる。
芦多はさっと立ち上がって追ってきた敵兵に立ち向かった。
じりじりと後退する芦多達を追う男の数は相当なものだ。
……いったい総勢でいくらなのか。
考えると気分が暗くなるので止めた。
向こうで、うわあという声が上がった。
芦多は心が冷えていくのを感じた。
もう、何人の部下を失っただろう。
少なくともこの5日で、1割以上。
武器を振り上げ、突っ込んでくる人影が時を止めたかのように固まった。
芦多も同じように動きを止める。
何が起きた?
油断なく辺りに視線を走らせる。
と、かさりと音がした。
芦多の心臓が跳ねる。
姿を現したのは、年配の男だった。