爪鷹の隊の野営地は、芦多の隊とは正反対に活気に満ちていた。
息を切らしながら輝から降りた芦多はなんとも言えない気持ちでそれを眺めた。
少し前までは自分の隊も同じようなものだったと思うと、虚しくなる。
「あれ、芦多様だ。」
近くで声がした。
見ると、型の後輩だ。
片手を上げて、答える。
彼は人の良さそうな笑顔を浮かべ、爪鷹のもとへ案内すると言った。
ありがたく甘える。
沈んでみえる芦多に気をつかってか、彼は何も喋らない。
芦多にはその沈黙が楽だった。
「爪鷹様。」
斧を振り上げて薪を割っていた爪鷹は、ゆっくりとした動きで振り返った。
そして、芦多をみとめるなり、小走りに近寄ってきた。
「どうしたんだ芦多。
お前、戦場のはずじゃあ…。」
「負け戦だ。」
「……。」
芦多の言わんとしたことがわかったらしく、爪鷹は顔を硬くした。
「芦多、取り敢えずこっちで。」
言われるまま、天幕に入る。
爪鷹は顎に手をあてて、芦多を見た。
「状況はどれくらい悪い?」
「そこまで酷くはないが…。
やはり人数が違いすぎる。」
「予想はしてただろ。」
ああ、していた。
だが、予想外の出来事が起こっただけだ。
「術者はなにか仕掛けてきたか?」
「いや。
灯世の出番はなかったし。
まだまだ様子見なんじゃないか。」
ふん、と爪鷹は鼻を鳴らす。
お高くとまって、と珍しく毒舌だ。