芦多は静かに立ち上がった。



爪鷹のいる場所は少し遠いが、急げば日が暮れるまでに帰って来られるだろう。



天幕を出ると、思い思いに休んでいた兵達が一斉に芦多を見た。



「爪鷹のところに。」



手近にいた兵にそう告げる。



彼は黙って頷いた。



気の利く男が輝の手綱を引いてきた。



輝は不機嫌そうに前足で地面を掻く。



今日、負傷した兵を運ぶために部下に貸したのだ。



きっと慣れないことに使われて怒っているに違いない。



「ありがとう。」



兵から輝を受け取ると、輝は頭を振って抵抗した。



よほど機嫌が悪いらしい。



芦多はため息をついて、鐙に足をかけた。



そんなことをしたくらいで、私が諦めると思うか。



素早く背に上がり、腹を蹴る。



勿論、手綱はきつく握ったままだ。



行き場を無くした輝は首を下げ、降伏するしかなかった。



悪かったという謝罪の意味も込めて一度愛撫すると、芦多は今度こそ輝を駆った。