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敦賀を背中に感じながら、芦多は愛用の太刀をふるった。
敵の数が圧倒的に多く、いくら斬っても追い付かない。
とうとう芦多は声を張り上げた。
「撤退ー!」
すぐさま法螺貝が吹かれる。
兵士達はジリジリと後退した。
「芦多様、これからどうするおつもりですか?」
一番後ろの線を守りながら、敦賀は荒い息のもと言った。
芦多はくっと声を漏らす。
敵を二人相手し終わってから答えた。
「頭脳戦に移る。」
すぐに爪鷹に会わないと。
芦多はまさに波の如く押し寄せる敵兵を見ながら思った。
灯世はちゃんと逃げられているだろうか。
無意識に目が灯世を探す。
「芦多様!」
敦賀の声に我に返り、頭が冴える。
後ろを見れば、敵兵が芦多めがけて突進してきていた。
慌てるな。
芦多はふーっと長い息を吐き出し、太刀を構える。
流れるような身のこなしで、凪ぎ払った。
敵が崩れるのを目の端で確認し、芦多は走り出した。
「心配しましたよ。」
隣で敦賀が言う。
「戦中にぼーっとなさるなんて!
いったい、何を考えてるんですか。」
いつも自分が言い聞かせてきたことを指摘され、耳が痛い。
すまなかったと言うしかなかった。