***



敵は、目の前。



軍の士気は一気に上昇した。



戦士達が各々、闘志を漲らせた目を爪鷹に注ぐ。



進撃を告げられるのを今か今かと待ちわびているようだ。



それを見て、灯世の胸がちくりと痛む。



行かないでほしい。



危険な戦地に、彼らを送り込みたくない。



これは彼らへの冒涜に当たるのだろうか。



灯世は視線を移して、群衆の前に凛と立っている爪鷹を見上げた。



爪鷹様は、どうするんだろう。



一番隊と合流するのだろうか。



既に、千歳と耶粗のいる三番、四番隊は敵を包囲すべく反対側に回り込んでいる。 



……開戦は間近だ。 



痛いほどの静寂。



白い靄が、遠くの戦士の姿を隠した。



「一班、一番隊と合流。」



班長らしき男が、力強い声で返事をした。



平地にその声がこだます。



爪鷹はそれだけ行って、即席の段から降りた。



一班だけか、とひそひそ声の波が広がる。



爪鷹は気にせず灯世に笑いかけた。



「俺達は三芳の頭なんだ。
先に手足が動いてくれる。
頭が潰れたら元も子もないだろう?」



これは灯世ではなく、みんなに聞かせているようだった。



「灯世、悪いけど一班と一緒に行って、術使ってもらえるかな?」



最後に、爪鷹はすまなさそうに付け足した。



「真っ先に前線に送り出して悪いけど。」


「いいえ。
私は皆さんの役に立つために来たんですから。」



自分が、彼らの盾なる。



灯世は唇を引き結んだ。