「…でも、戦で死なせてやる方があいつの為かも知れませんよ。」



ふと、敦賀の声に重みが増した。



芦多はそんな敦賀を横目で窺う。



「屋敷で役立たずと罵られ続けて命を終えるのは、寂しいですからね。」



笑った敦賀の顔は、やはり声と同様に寂しげだった。



「…そうかもしれないな。」



違う、という人もあるだろう。



命をそう捨てるものではない、と。



確かにそうかも知れない。



だが、少なくとも、生きる意味もないまま虐げられて生きるのも良いわけではない。



利都のように主人を失った影は、雑巾よりも役に立たない。



そういった扱いを受ける。



出来ることなら昔の家に返してやりたいが、それは夢物語だ。



どうしたって、この状況はひっくり返せない。



何もしてやれないのが歯痒い。



「芦多様。」



敦賀の叱るような声で現実に引き戻された。



ぶつかりかけていた木を慌てて避ける。



敦賀はそんな芦多をみてため息を漏らした。



「まったく、しっかりして下さい。
利都のことは芦多様にどうにか出来る問題ではありませんよ。」


「……ああ。」



むすっと答え、芦多は敦賀を引き離すように速度を速めた。