朝靄の向こうに、敵国の旗が見えた。



出陣から数日、とうとう、海澱の拠点まで辿り着いた。



型の後輩である敦賀(ツルガ)と共に偵察に出ていた芦多は深呼吸を繰り返す。



「とうとうだ。」


「ええ。」



敦賀もごくりと生唾を飲み下す。



これが敦賀にとっては初の遠征で、彼の緊張は芦多には痛いほどわかった。



「退くぞ。」



低く呟き、芦多は身を隠していた茂みを出る。



敦賀も音を立てずに後に続いた。



優秀な部下だ、と芦多は内心感心する。



男衆の中でもおとなしい敦賀は、何かと芦多と気が合った。



そして、それが理由ではないが、芦多は敦賀に目を付けていた。



まだまだ芦多より若い、17の彼の実力はもっと伸びるだろう。



「芦多様、灯世様に会ってらしたらいかがですか。
これからは今までになく忙しくなりますよ。」



素早く木々の間を擦り抜けて走りながら、敦賀は表情を変えずに言った。



「む。」



断ろうとしたが、敦賀は被せて言った。



「遠慮しないでください。
灯世様に会えなかった夜の芦多様は見るも無惨なんですから。」



今度はにやりと芦多を窺う。



「お前は…。」


「隊長思いでしょう。」



得意気に、敦賀は笑う。



「利都は私に任せてください。
芦多様の一番大切な時間くらい、作って差し上げますよ。」


「……まったく、出来すぎた部下を持つといろいろと大変だな。」



この嫌味にも、敦賀は笑顔で返した。



「誉め言葉と受け取ります。」



まったく、可愛げがあるんだかないんだか。



時折、気が利きすぎてこちらが対応に困る。



ついつい、敦賀の気配りが気持ちよくて甘えたくなるのだ。



「じゃあ、少しだけ。
爪鷹とも話しておきたいし。」