灯世は追いすがることも忘れて、ただそれを見ていた。



どうして話をわからない。



私にはまだ何も出来ないのに。



心に氷を流しこまれたかのようにじわじわと悲しみが広がってゆく。



どうしてわかってくれないの?



そして、みるみる間に怒りが沸き上がった。



辰太郎は怖いのだ。



自分が恐がっているのだ。



八重が走り回っている間、どうしても屋敷の守りは手薄になる。



もし集中攻撃されたときが怖いのだ。



結局、自分のことしか考えていない。



もし灯世が結界を引き受け、それを張り続けるとすれば、体力はギリギリだろう。



まだまだ修行が必要だ。



それをわかっていて言っているのだろうか?



いや、わかっていないだろう。



もし、灯世が力尽きたら、結界は消え失せる。



その瞬間、魔物たちはここぞとばかりに屋敷を襲うだろう。



八重には負担になるが、すべて任せた方が安全なのに。



「退出願います。」



いつの間にか、使用人の男が灯世の側にひざまずいていた。