「すまんな、いきなり呼び出して。」
「いえ。」
返事と共に頭を一層下げる。
「今、悪いことになっておってな。
そなたの母、八重の力だけではこの国は守りきれん。」
よかった…。
灯世はほうっと息を吐いた。
八重の不幸ではなかった。
母様は生きている。
「お前にも、この国を護って欲しい。」
ぼうっとしていた頭に飛び込んできたあり得ない言葉に灯世は顔を上げた。
「八重には猛反対されたのだが、どうしても八重と兵だけでは対応出来んのだ。」
弱った様子で辰太郎は頭を掻く。
「お待ちください。」
慌てて灯世は言った。
「私にはまだ荷が重すぎます。
力もありません。」
結界はまだ危うく、呪札に関してはまだ知識のみだ。
魔物に遭遇した時、かろうじて追い払うことが出来るであろう呪文を知っているだけだ。
そんな灯世が行っても、足手まといになる。
実際、前に言われた。
「怖いのか?」
不機嫌に、辰太郎は尋ねた。
「そうではありません。」
「ならば、この屋敷を護れ。
命令だ。」
反論する間もなく、辰太郎は立ち上がって去って行ってしまった。