房姫と灯世は回廊を歩きながら話した。



何を言われるのか。



今のところ、世間話ばかりだ。



「ねぇ、灯世さん?」


「はい。」



灯世の警戒っぷりに、房姫は笑った。



「そんなに構えないでちょうだい。」



答えず会釈する。



「ねぇ、今度一緒に山に行かない?」


「山、ですか?」


「そろそろ季節も良くなってきたし。」



ここは断れる雰囲気ではない。



すごく不安だけど…。



「はい、是非。」


「じゃあ、早速辰之助様にも話しておいてくださいね。」


「辰之助様も一緒に?」



房姫はそんなわけないでしょ、と笑った。



「あの方は忙しいでしょ?
まったく、妻なら辰之助様の忙しさがわかってもいいのに。」



どこかこの人は私をけなす。



忙しいなんて、嘘だわ。



妻だからわかる。



あの人は仕事なんて、していない。



もう辰太郎様の後を継がなければいけない歳なのに、女遊びばかり。



灯世が拒んでいるのが原因だと言われれば痛いが、辰之助も好きなようにやっているのだ。



…前はあんな風じゃなかったのに。