バタバタといつもの足音が聞こえた。
考えるまでもない、千歳だ。
書物に目を通していた芦多は目を離さずに千歳を迎えた。
「芦多!」
「なんだ。」
ペラリと紙を繰る。
千歳はそれをバンッと封じた。
芦多が面倒くさそうに顔を上げる。
「どうしたんだ。」
やっと聞く体制になった芦多に、千歳は息継ぎもせずまくし立てた。
「海澱の国が攻めてくるって!
もう、すぐ近くまで来てるって!
術者は三人だっていうし!」
これには芦多も固まった。
海澱が、あの強国が攻めてくる?
しかも既に近くまで来ている?
そして…術者は三人。
これは痛い。
「どうするんだよ芦多ぁ。」
頼りない表情を浮かべ、千歳は芦多の着物を掴む。
「どうするも何も。
私達に出来ることは戦う駒になることだろう。」
「そうだけどさ。
言っとくけど俺は山城の駒にされんのは御免だぜ?」
「……。」
けろりとした顔でそんなことを…。
まあ確かにそうだけれども。
「ってか、術者三人だぜ?
どうなんだよ。」
「どうにもならないな。」
芦多は沈痛な面持ちで言う。
向こうの力がどれくらいのものかはかり知れていない今、八重と灯世を信じることだけしか出来ない。
「八重様はもうご存知か?」
「ったり前だろ。
俺が知る前に知らされてるよ。」
……お前が盗み聞いたのが知られる前だって可能性があるから訊いたんだ。
芦多はイラッと顔を背ける。
盗み聞きが習慣になってやがるな。