「くそっ!」



ぎりっと辰之助が歯を鳴らした。



動きが再開する。



「ああっ!」



ビクンと灯世の身体が震えた。



耐え、布団をギュッと握る。



早く終わって欲しい。



灯世は顔を布団に押しつけた。



と、身体の負担が軽くなった。



灯世はわけがわからないまま、震える荒い呼吸を繰り返す。



みると、芦多が辰之助に殴りかかっていた。



形相がすごい。



こめかみに血管を浮き立たせている。



「芦多…様…。」



辰之助が怒り狂って、芦多に立ち向かう。



が、手刀を受けて崩折れた。



灯世は仰向けのまま、芦多を見つめた。



本当に、いつも必要なときに現れる。



震える呼吸を繰り返す灯世を見て、芦多は苦しそうに顔を歪めた。



「灯世…。」




灯世は放心状態のまま横たわっている。



芦多は唇を引き結んで、灯世の傍らにしゃがむ。



「遅くなって…。」



言いながら、芦多は灯世に布団をかぶせた。



そして灯世の頬を流れる涙を拭う。



灯世は触れた手に顔を押しつけた。



温かい手が、灯世を撫でる。



「来てくれたんですね…。」



芦多は泣きそうな顔のまま、灯世を抱き起こす。



「灯世の声が聞こえた。」



ここから聞こえるはずがないのに。



「頭の中で、灯世の悲鳴が鳴り響くんだ。
来てみたら、こんな…。」



灯世は目を瞑る芦多を撫でた。



「ありがとうございます。」



芦多がやや乱暴に灯世を抱き締めた。



さっきとは違う腕。



力が強くても、優しく灯世を扱ってくれる腕。