恐々と見上げると、辰之助が灯世を睨んでいた。



辰之助の身体が離れた。



灯世は近くにあった着物で身体を隠す。



辰之助の拳は震えていた。



「お前…!」



ガッと力一杯、辰之助は灯世を殴った。



灯世の身体が畳に打ち付けられる。



「あいつと出来てるのか?」



据わった目が灯世を睨む。



灯世はじりじりと後退りする。



辰之助はそれを許さない。



灯世の髪を鷲掴み、引き寄せる。



「もう、契りも交わしたか?」



恐い…。



今までは灯世に暴力を振るうことはなかった。



「あっ。」



ぐいと、辰之助は灯世を揺さ振った。



「あれだけ情けをかけてやったのに…。」



そのまま灯世を畳に叩きつける。



ガタガタと身体が震えた。



自分はどうなってしまうんだろう。



もしかしたらこのまま殺されるかもしれない。



初めて狂気じみた辰之助をみた灯世は震えて辰之助を見上げた。



「どうせさっきも会ってきたんだろう?」



倒れた灯世に、辰之助は近寄る。



「来ないで…。」


「黙れ。」



灯世は再び着物で身体を隠した。



「どうして私を見ない?」



辰之助が眉根にシワを寄せる。



「ずっと優しくしてやったのに。」



確かに優しかった。



でもそれはこの屋敷に仕え始める前までのこと。



奉公に上がってからは、辰之助は変わった。



灯世を自分のものにしようと躍起になっていたではないか。