「国の為だ。」



嘘つき!



ただ、自分の欲を満たしたいだけだ!



絶体絶命だ。



辰之助に組み敷かれ、身動きがとれない。



芦多が頭をよぎる。



ついさっきまであの人の腕の中だったのに。



芦多様…。



鈍い衝撃。



灯世から甲高い悲鳴が上がった。



辰之助は怒って灯世を打つ。



今まで、灯世は黙って受け入れていたからだ。








抗ったことなどなかったのに、と辰之助は唇を噛む。



これも全部、芦多が帰ってきたせいだ。



全部、あいつのせいだ!



辰之助は力を込める。



灯世がまた悲鳴を上げた。



逃げられるわけがないのに、必死で身体をよじる。



余計に腹が立った。



そして、決定的だったのが、灯世の悲鳴…。








嫌だ!



芦多様!



灯世の脳裏に、笑顔の芦多が浮かぶ。



嫌…。



ギュッと閉じた瞼の裏に涙が滲む。



「ああっ。」



身体が反る。



駄目!



もしまた子どもが出来たら、今度こそ自分は…。



芦多様!



助けて…!



ぐっと辰之助が力を込めた。



駄目!



灯世は目を見開いた。



芦多様、助けて…!



「芦多様ぁッ!」



叫んで、ハッとした。



上で、辰之助も固まる。