「灯世、お前大変なことになるぞ。」



灯世は一層顔を強張らせる。



「その禍の年にはな、必ず守護者の家に鍵となる後継者が生まれるらしい。」



それが…



「お前だとよ、灯世。」



一瞬、この部屋の時が止まった。



芦多ですら唖然としている。



「そんな話、聞いたこと…。」


「ないだろ?
八重様も驚いてた。」



灯世は手に目を落とした。



まったく、なんだってこの二人にはこんなに次々と問題が降りかかってくるんだ?



「芦多、辰太郎様は灯世を放さない。」


「……そうだろうな。
民も灯世を求める…。」



そうだ。



今度は辰太郎親子だけでなく、民も灯世を必要としている。



「だから、逃げるならさっさと逃げろ。
ぐずぐずしてたらとっ捕まるぞ。」



この国が滅んでも千歳は一向に構わない。



この二人の幸せが優先だ。



だが、この二人はうんとは言わないだろう。



自分の人生を棄ててでも国を守るに違いない。



俺はそんなのを見るのはゴメンだ。



「……どうする、灯世。」



芦多は灯世をみる。



灯世は頭を振った。



「私達がするべきことはもう、わかっているでしょう?」


「ああ。」



千歳はやっぱり、と内心頭を抱えた。



だから、お前達が嫌いで好きなんだ。



「行けよ!」


「どうして、二人で逃げられますか!?
私の欲の為に、この国が滅ぶのを見ていろと?」



灯世が叫ぶ。



芦多もきつく目を閉じている。



駄目だよ、お前達、諦めるなよ。


「どうしてこうなっちゃうんでしょう。」


「運命だ。」



哀しそうに笑う灯世を、芦多が抱き締める。