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大変だ。
千歳は足が許す限り全力で動かした。
ダダッと床板が鳴る。
芦多、灯世!
お前ら早く逃げないと…。
「芦多!」
芦多の部屋の障子を勢いよく開ける。
そこには驚いたことに灯世がいた。
「え、灯世?」
荒い息の間から、千歳が言葉を吐き出す。
「お前ら…?」
「ここから出ていくことにした。」
千歳はピタリと動きを止めた。
出ていく?
つまり、二人で?
「千歳さん、いきなりで驚かれたでしょう?」
灯世がおずおずと言う。
「相談もせず悪いと思ったが、早い方がいいかと思ってな。」
「あ、あぁ。
実は俺も急かしにきたんだ。」
今度は芦多と灯世の動きが止まる。
「どういうことだ?」
芦多は眉間にしわを寄せ、灯世は怯える。
「さっき、八重様が占をなさったんだ。」
「母様が?」
「あぁ。
辰太郎様に頼まれてな。
そしたら、お前達のことが出たらしい。」
千歳は二人を交互にみた。
芦多の目が先を促す。
「どうやらこの世は100年に一度、大きな禍が起こるらしい。」
「どんな?」
「そこまで言ってなかった。」
そうか、と芦多は顎に手をやる。
「取り敢えず、この年がその禍の起こる年なんだな?」
「さすが芦多、話が早い。」
千歳はパチンと指を鳴らした。
そして、灯世に身体を向ける。