「そうでしたか。
それでいきなり芦多さんは派遣されたのね。」



灯世はふんと荒い息を吐く。



「私にはもうこの屋敷に留まる理由はないの。
…母様には迷惑をかけるけど、許して欲しいの。」


「…いいこと、よく聞きなさい。」



芦多はぐっと頭を下げた。



八重はそれを見て、小さく笑う。



「私は貴方方の話を聞いていません。」



隣で芦多が身動ぎした。



「故に、許してもいないし、反対してもいない。
敢えて言うなら私は灯世の幸せを願っています。」



八重は二人を見ない。



灯世はニッと笑った。



が、芦多はわけがわからないという顔だ。



「これは私の独り言ですからね。」


「ありがとう。」



最後に、八重はちらりと灯世を見た。



その口元は笑っていた。



芦多もやっと意味を理解できたらしい。



八重は目を瞑ると言ったのだ。



「ありがとうございます。」



芦多は深々と頭を下げた。



畳に頭を擦りつけるようにして。



灯世も隣で同じように頭を下げた。