「母様!」
勢いよく障子を開ける。
八重は驚いて湯のみを落としかけた。
「何ですか。」
声には咎めるような調子が窺える。
「すみません、急ぎなんです。」
「こんにちは。」
八重は後ろに続いて入ってきた芦多を見て、さらに驚いた。
「芦多さん。」
「初めまして。」
芦多は礼儀正しく頭を下げる。
灯世は八重の前に正座した。
芦多も隣に膝をつく。
「母様、あの…。」
「今日はお願いがあって参りました。」
灯世の言葉にかぶって、芦多を言った。
驚いて隣を見る。
芦多は真っ直ぐに八重を見ていた。
瞳は真剣だ。
「灯世さんを、ここから連れ出そうかと思っています。」
え?と八重が素っ頓狂な声を上げる。
それはそうだろう。
灯世でもそうする。