「芦多…。」



房姫が怯えたように後ずさる。



芦多は一歩詰め寄った。



「世継ぎを殺したのが領主の姪だとわかったら、裁かれることはない。」


「だから俺達は辰太郎様に申し立てはしない。」


「だが、忘れるな。
私は貴方を許さない。」


「俺達、だ。」



横から千歳が訂正する。



「それから、これからまた何かしたら今度こそ命ないからな。」



千歳が房姫に指を突き付けた。



忘れるなよ、という脅しも。



房姫は目を丸くしている。



芦多はずっと房姫を睨んだままだ。



絶対に許さない。



灯世を泣かせる輩は、誰であろうと絶対に許さないんだ。



非公式にこうして会っただけで済ませたことに感謝してもらいたい。



公衆の面前で辱めることだってしようと思えば出来たのだから。



芦多はもう一度房姫を睨みつけてから背を向けた。



千歳が後からついてくる。



「よく我慢したな。」



肩に置かれた手が、優しく芦多を慰める。



「…ありがとうな。」



千歳は優しく笑って、芦多の肩から手をおろした。