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芦多の深い瞳に引き込まれそうになる。
この人といると、辰清を失った苦しみが薄れる。
これは逃げになるんだろうか。
どこか咎める自分がいるが、灯世は芦多を求めずにはいられなかった。
どこか愁いをたたえた目は、いつも灯世の五感を狂わせる。
芦多しかみることが出来ない。
そして、自制心も奪われるのだ。
すべてを曝け出してしまう。
恥じらいなど、頭の片隅に追いやられてしまう。
人目など気にせず、芦多に走ってしまいそうになる。
子どもを亡くしたばかりだというのに、灯世の頭は芦多でいっぱいだった。
しかし、芦多と別れ、一人になるとたちまち辰清が瞼の裏に浮かび、孤独感に襲われる。
一人になりたくなかった。
芦多を利用してしまう自分は、本当に芦多を愛しているんだろうか。
灯世の視線は自然と地面に落ちた。
私は母親としても女としても最低だ。
「灯世?」
芦多の優しい気遣いが痛い。
「あまり思い詰めるな。」
深い声が、灯世を泣かせようとしているようだ。
涙がせり上がってくる。
灯世はとても空虚な気持ちになった。