娘をつれた里が、灯世を呼び止めた。



芦多も手近な物陰に立ち止まる。



「辰清様のこと、聞き及びましたわよ。」


「…そうですか。」


「残念なことね、お世継ぎを亡くされるなんて。
…これじゃ何のために娶られたのかわかったもんじゃないわ。」



クスクスと数人の女も笑う。



灯世は背を向けているので顔は見えない。



芦多はどれだけ飛び出していってやろうかと思った。



「…失礼します。」


「これからは人付き合いにも気を配ったほうがよろしくてよ?」



灯世は一瞬立ち止まったが、すぐに歩き出した。



そのまま早足に角を曲がる。



芦多もしばらくして後を追った。



「灯世?」



暗がりで、灯世が立ち止まっていた。



「大丈夫か?」


「はい、慣れてますから。」



慣れるほど多くの間あのような風当たりを受けていたことに同情する。



「わかっている者もいるのを忘れるな。」



肩に手を置くと、灯世は小さく頷いた。



「はい、わかっています。
それがどれだけ励みになっているか、芦多様にはわからないでしょう?」