辰之助はそんな灯世を怪訝そうに見た。



「何かあるのか…?」



灯世が唇を噛むのがみえた。



「いえ。」


「…そうか。」



嫌な空気が流れる。



夫婦間に亀裂が生じた瞬間だ。



もともと壊れた夫婦関係だが。



「遅くなるなよ。」


「承知しています。」



灯世の意図はわかっていたので、芦多はそっと灯世のあとをつけた。



道々、夕涼みをしている婦人方に出会う。



灯世はそのたびに何か挨拶を交わしていた。



子どもを亡くした若い母親に誰もが哀れみの視線を投げる。



灯世はその中を唇を噛んで毅然として歩いた。



何よりも怖いのは、人の視線だ。



芦多は灯世を取り巻く女達を見て思った。



本当に灯世を可哀想に思っている人間もいるが、半数以上は嘲笑っている。



まるでざまあみろとでも言いたげに、扇子で顔を隠し、灯世を笑った。



中でも里は酷かった。



「灯世様。」


「…こんばんわ。」