辰之助はほっと力を抜いた。



「姿が見えないから、心配した。」


「申し訳ございません。」



灯世が頭を下げるのを、木の陰から芦多は覗き見た。



「いのが灯世がいないと騒ぐから。」


「ずっとここにいたのですけれど。」


「そうか、ならいい。」



辰之助は空を見上げた。



「だいぶ夜も明るくなったな。」


「そうですね。」


「夏がきた。」



幸せそうな顔が憎い。



こいつのせいで、私は極寒のあの地へ…。



芦多はグッと拳を握り締める。



今、飛び出していけたらどんなにいいか。



もし、彼が領主の息子でなかったら、間違いなく芦多は手をかけていただろう。



「…私は少し出ます。」


「どこに?」



こちらを向いた灯世の顔を強張った。



辰清のことがあってすぐなので、辰之助も警戒しているらしい。



「散歩に。」


「私も行こう。


「いえ、1人になりたいので。」