「もっと、しっかりしなくては。」



芦多は黙って灯世の言葉に耳を傾ける。



「あの日、私は辰清を置いて、手を洗いに行ったんです。
お茶を飲めと言い置いて。」



灯世の顔が歪む。



「あの子は私の言いつけを守っただけだったのに、私の代わりに…。」


「それは違うと思うぞ。」



狙いは明らかに辰清だ。



そして、あわよくば灯世もという算段だったに違いない。



「世継ぎの命を狙うのはそう珍しいことではない。
最初から狙いは辰清だったはずだ。」


「私だって飲んだかもしれないのに。」


「灯世が先に飲んで死んだら、残った辰清を始末するのなど容易い。
後からでも十分だ。」



そんな、と灯世が頭を降る。



「灯世だけでも生き残ってくれて、よかった。」



ぐっと灯世は唇を噛んだ。



自分も一緒に死にたかったというのが本音だろう。



「犯人は、私達が血眼で捜している。
すぐに捕まえてやるから安心しろ。」


「…ありがとうございます。」



今も千歳達が嗅ぎまわっているはずだ。



…誰より、爪鷹が。



彼は隠れて物事を成すのが上手い。



爪鷹にかかればどんな事件も解決されてきた。