千歳は拳を握り締める。



「私は、何も考えていなかった。
ただ、灯世に会いたい一心で…。」


「…いいじゃん。
お前が会いたきゃ会えば。
灯世だって会いたがってんだ。」



芦多は頭を抱えた。



会いたい。



会いたくない。



会いたい。



会っては、いけない。



「くそっ…!」



ずるずると座り込む。



足音が遠ざかっていく。



千歳から無言の励ましを受け取った。



同時に、散々悩めと。



ああ、悩むよ。



こんなの、一生答えなんて出るわけない。



自分が我慢すればいいだけの話なのだから。



灯世には自分の居場所が出来てしまった。



そして、自分以上に愛すべき存在も。



辰之助だけならどれだけよかったか。



ただ、灯世をさらえばいいだけだ。



しかし、子どもともなるとそうはいかない。



芦多は千歳が探しに来るまで、ずっとそこに座り込んでいた。