芦多はただ、陰から3人を見つめた。



不思議な事に、その子が憎いとは思わなかった。



辰清をみる灯世の目が綺麗だったからかもしれない。



ポンと千歳の手が肩に置かれた。



顔を向けると、哀しげな目が、芦多を見ていた。



「つらくないか?」


「…あぁ。」


「……みてる俺がつらい。」



最近、千歳はよく泣く。



案外泣き虫だという事が分かった。



今も、目に涙を溜め、芦多をみている。



「子どもが出来たときの灯世の様子はどうだった?」


「痛々しかったよ。
打ちひしがれてた。
俺、灯世の部屋に行ったんだ。
そしたら…。」



一度、千歳は言葉を切る。



深呼吸して、千歳は続けた。



「来ないでって怒鳴られた。
知られたくなかったって…。」


「そうか…。」


「それに、泣いてたよ。
お前には出来れば知られたくないって。」



芦多は灯世に視線を戻した。



辰清が、泥団子を灯世に渡している。



灯世はそれを笑顔で受け取っていた。



「…灯世は幸せそうだな。」


「ああ。
辰之助は憎いけど、この子には罪はないって。
この子は一生懸命私を愛してくれてるのに、私が父親が嫌いだからとこの子を突き放すような惨い真似はできないって。」



そうか、と芦多は呟いた。